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日常の中に内在する「生」と「死」を鮮やかに描いた傑作短篇集。 『星々の悲しみ』
『星々の悲しみ』  宮本 輝 ★★★★★



喫茶店の壁にかかっていた一枚の絵「星々の悲しみ」。この薄命の画家の作品を盗み出し、ひとり眺め入る若者を描く表題作のほか、不思議なエネルギーをもつ輝かしい闇の時代・青春のさなかに、生きているあかしを、はげしく求める群像を、深い洞察と巧みな物語展開で、みごとに描いた傑作短篇の数々。
(裏表紙より)







日常の中に内在する「生」と「死」を鮮やかに描いた傑作短篇集。


「星々の悲しみ」

青春の煌きの中に、生と死の狭間で揺れる心が描かれている。
深くて碧い湖のような、圧倒的な透明感と、光と闇のコントラストを持つ作品。
「青が散る」を初めて読んだときの、心の奥深くを揺さぶるような静かな感動が蘇ってきた。
登場人物は、みな真っ直ぐで、汚れたり捻くれたところがなくて、愛すべき弱さと不器用さをもっている。

主人公の「ぼく」は、医学部を志望する浪人生。「猛烈な勉強をしてやろう」と決心しつつ、それに見合うだけの努力ができずにいる。予備校をサボって入った図書館で見かけた女性に惹かれ、彼女にいいところを見せたい、再び会いたいという思いだけで図書館に入り浸る。そこで、同じ予備校でいつも最前列で授業を受けている二人と出逢う。絵に描いたような二枚目で成績もトップクラス、女性に対しても余裕でウィットに富んだ有吉と、絵に描いたような三枚目で成績はギリギリながら人一倍努力を重ね、女性に対して真っすぐで情熱的な草間。対照的な二人の友人と、「星々の悲しみ」という絵画、「ぼく」が惹かれた女性と妹の加奈子のかかわりの中で、「ぼく」の心が描かれていく。

生と死を軸に、目的に向かって一途に打ち込めない弱さ、一方通行の淡い恋、将来への不安、つかの間の出逢いと別れ、アイデンティティのゆらぎなど、一人の人間が生きることの明るさとどうしようもない寂しさを、モラトリアムの中でもがく青年の姿を、静かな筆致で、それでいて温かい眼差しで描いている。
解説者は巻末で、「青春とは、ナイーヴでいて力づよく、またみにくさも恥も透かしてしまう不思議なエネルギーをもつ輝かしい闇なのだ」と述べている。「星々の悲しみ」という、作中に登場する絵画のタイトルでもある題名が、すべてを表している。
盗んだ絵の見方が変わり、やがてその絵を返すというドラマと、その流れの中での出会いと別れを通して、「ぼく」の心の変化―迷いの中から前を向くまで―を見事に描いている。
ラストの文章にも、心の奥底からこみ上げるような感動を覚えずにはいられない。

私はこういう作品を待っていた。


「西瓜トラック」 「火」

宮本氏の作品のもう一つの特徴である、昭和期の庶民の生活の匂い立つような描写が印象的。
毎回見事だとは思うけれど、見事であるがゆえに生々しく、こちらの系統の作品は個人的には苦手だ。


「北病棟」

生と死の対比が、この短篇集の中ではある意味最も直接的に描かれた作品。


「小旗」 「蝶」

タイトルからもわかるように、日常生活の中にあるものを鍵に、市井に生きる名もなき人々の生を鮮やかに描いている。
それにしても宮本氏は、何気ないモチーフを軸に、心の奥深くを彫刻のように描き出すのが本当に上手い。
五感に訴える描写、モチーフの選択、生と死・明と暗・若きと老いのコントラスト、余韻の残し方が、本当に見事。
この人は実は短篇向きなのではなかろうかと思うほど。
赤い小旗と、薄暗い理髪店の店内で揺れる何百もの蝶が目に浮かぶ。特に、生と死を軸にしたこの短篇集の中で、生と死の狭間で時間を止められているとも言える「標本」というモチーフは、とても象徴的だ。


「不良馬場」

ラストに最も衝撃を受けた作品。

正直初めはあまり興味を持てなかったが、後半、話が寺井の視点に移ってからは、読んでいくうちにいつしか、ケンちゃん、ヒデさん、高嶋さん、金さん、おばちゃんといった寺井と同じ病棟の面々が好きになっていった。
彼らは死が身近でありながらも、捨て鉢とは違う、達観しているともいうべき、不思議な明るさとエネルギーをもっている。(もちろん、それと対をなすトウホクさんの死も描かれている。光を描くのに闇を使う、宮本氏の真骨頂である。解説の「暗さと放埓さのまじりあう世界」が言い得て妙。)

初めは悲観的であった寺井も、競馬場で仲間と過ごした日々のことを花岡に話していくうちに、次第に生きる活力を取り戻していく。
互いに苦い思いを抱きながらも一筋の光を見出して未来へ向かっていく二人のように、目の前を二頭の馬が駆け抜けていく。
ここで終わっていれば、何の変哲もない物語なのだが、そうではないところが宮本作品。
ラスト1ページ弱の衝撃。読み終わって、しばらく呆然としてしまった。
「星々の悲しみ」に始まり、この話を最後にもってくる憎さ!
これはぜひ読んで、感じてほしい。



文学にも女性的、男性的なものがあると思う。それは単に、男性の方が力強く、女性の方が繊細、などという単純なものではなく、女性的な目線、男性的な目線、という意味においてだ。
そういう意味では、宮本氏の作品は、基本的にとても男性的であると感じる。「西瓜トラック」などの作品にみられるような、少年の性に対する視点は、男性でなければ描けないだろう。「錦繡」が合わなかったのは、宮本氏が描く女性視点に違和感を覚えたことも大きかった。
ただ、同時に、青年期の男性の繊細で危うい心の機微を描いた、「青が散る」や「星々の悲しみ」のような作品はとても好きだ。
氏の作品の中でも、好きな作品とそうでない作品に分かれるのはなぜか、この短篇集に出逢うことでわかってきた気がする。

作中で「ぼく」が読んでいた「ツルゲーネフ全集」を、読んでみたくなった。



それにしても、「青が散る」といい「星々の悲しみ」といい、A●azonでも此処でも、なぜこんなにレビューが少ないのか・・・古い作品ということもあるけれど、空気感が静かすぎるのかなぁ。
もっと評価されるべき素晴らしい作品だと声を大にして言いたいです!(個人的な感想です)








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大切なのはどの本、どんな経験を持つべきかではなく、それらの本や経験のなかに自分自身の何を注ぎ込むかだ。(ヘンリー・ミラー)




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tag : 文春 宮本輝 青春 生と死

絶対的な孤独に共鳴して、寂しさが胸に苦く広がる。愛の本質に深く迫る作品。 『草の花』
『草の花』  福永 武彦 ★★★★★



研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。
彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。
まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。
(裏表紙より)







純粋な恋愛小説だと思って読み始めたら、全く違った。
特に、茂思(蛇足だが、この「汐見茂思」という名前の語感はどうにも慣れなかった。「し」が多いからか?)の忍への想いは、恋愛という言葉ではあらわせないように思う。けれど、いわゆる同性愛という一言で片づけてしまうのではなく、彼の感情に本当の意味で共感できる人は、実際多くはないのではないだろうか。

―藤木、と、僕は心の中で呼び掛けた。藤木、君は僕を愛してはくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。僕は一人きりで死ぬだろう……。―(p249)

なんという寂しさだろう。茂思は潔癖なまでに愛を求めたが、自分の孤独を大事にするあまり、与えられる愛に気付かなった。
茂思の絶対的な孤独や愛し方、彼の純粋ゆえのある種のエゴや過ちが我が身に重なり、苦しくなる。
心を深く抉られる作品だった。

巻末の本多氏の解説は、茂思の感情をセンチメンタリズムや同性愛的な恋愛感情と括ってしまわずに、茂思の孤独や潔癖さ、それゆえの寂しさといった、青年期ゆえの苦悩や葛藤に、静かに寄り添っている。
この解説のおかげで、自分の心の言葉にならないいくつもの感情が腑に落ちたとさえ思う。
もしかしたら私は、作品本編と同じくらい、巻末の解説に救われたのかも知れない。



以下、巻末の解説より引用

p268 なんという、ぞっとさせるような孤独だろうと、読者はお考えになるかもしれない。しかし、冷静な理智の眼には、人生の現実はそういう残酷なものだ。人は、ついに、お互いを完全には理解することができない。極言すれば、人間は、誰でも、ひとりぼっちなのだ。もしも、恋愛が完全な理解の上に築かれなければならないという潔癖さを持するとするならば、この世には、おそらく一つの恋愛も築かれないであろう。主人公汐見の悲劇は、そのような潔癖から起った。
このような絶望的な孤独は、多分、作者のものであろう。その絶望の深淵の中から自分を見つめ、人生を見つめることは、さぞつらいことであろうと思う。しかし、そのような深淵の底でこそ、真物が作られる。波の間に間に浮ぶようなものから、われわれは何ものをも期待しはしない。









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私たちは自分が孤独でないことを知るために本を読む。(C.S.ルイス)




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ラノベっぽいと軽い気持ちで読んでいたら、終盤に思いきり突き放された。けれど感想を書いていたら、結局ラノベっぽくなってしまった。 『ボトルネック』
『ボトルネック』  米澤 穂信 ★★★☆☆



亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。
ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。
もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。
世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
(裏表紙より)







文体が軽いというか表現がラノベっぽくて(漫画的?というのか。「平易」とはまた異なる。どちらかというと「安易」。)、題材もざっくり言うとパラレルワールドということで、さくさくと読めた。
昭和っぽい表紙イラストとは裏腹に、中盤まではミステリというよりファンタジー要素が強い。もちろん、家庭の不和、恋人の死など、暗い影を落とす要素も多々あるのだが、主人公リョウの「姉」にあたるサキが暗い雰囲気でも笑い飛ばしてしまう明るさと強さを持っていて、ともするとコメディぽい部分もあるほどなのだ。このサキのキャラクターとリョウとのやりとりは、個人的にとても気に入っている。

しかし、終盤に入ると、様相が一変する。不穏な気配がして、話がどんどんシリアスになっていく。パラレルワールドものにはお決まりの、主人公が成長して元の世界に戻り、ポジティブに新たな一歩を踏み出す―というお約束が覆され、リョウに突きつけられた現実とともに、結末は読者に完全に投げられる。(委ねられる、というやさしい感覚ではない。)
ポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかも、読者次第になっている。
最後まで読んで初めて、あぁ、ファンタジーじゃなくてミステリだな、と納得させられるのである。
感想としては正直、うーん、というより、えー!?という感じ。



多分、もやもやしている最大の理由は、リョウの受けとめ方だ。
ざっくり言うと、「みんなが不幸になったのはボクのせいだったんだ、ウワーン」みたいな感じなんですが(違)
特に思春期にはよくある思考パターンだけど、どんだけ自意識過剰なんだと。
大体、「間違いさがし」だって片手とちょっと分くらいしかしていないんだし。
それに、乱暴な例だけれど、「今」の時点で例えばリョウの世界で死んでいた人がサキの世界では生きていたからといって、ひねくれた見方をすれば、サキの世界のその人が未来にもっと悲惨な死に方をするかも知れない。そのとき、リョウはどっちが「プラス」だったと判断するのか。

確かに、リョウが見てきた部分では自分のせいでって感じるのもわからなくはないけれど、とらえようによっては、それだけ世界におけるリョウの「重み」って大きいっていうことなんだから、それに気づいたこれから、どういう選択をするかによって、いくらでも運命は変わるっていう風にもとらえられるんじゃないかな。
自分一人いなくても、世界は何事もないかのように回っていく。それは確かだけれど、その「世界」は自分がいる世界とは、確実に違う。
一人の存在は、プラスかマイナスかなんて一つに決まるものではなくて、一人が色々な存在と複雑に絡み合って作っているものが世界そのものだから。
それはある意味、最後にリョウが感じていたようにとても怖いことだけれど、だからこそ選択は価値のあることでもあるのだと思う。
…なんて、感想を書いていたら結局三流のラノベになってしまった。
書きながら、ふと「バタフライ・エフェクト」を思い出した。



テーマは嫌いではないし、キャラクターもそれなりに魅力はある。ただ、感情移入できるほど十分に掘り下げられているとは言い難い。
テーマはそこそこに重い割には、文体が軽すぎて、表現に深みがない。
表紙のイラストも、ラノベにしては昭和くさいけれど、文芸小説にしては漫画的に過ぎる。
全体的に、ラノベにしては重く、かといって成人向けの小説にしては軽い、中途半端な印象を受けてしまった。
主人公の年代やテーマを考えても、中高生向けかな。

ちなみに、タイトルの「ボトルネック」という言葉は、中盤に新聞の引用として出てくる、のだが。
タイトルに据えた象徴的な言葉なんだから、ストレートに説明しちゃ駄目だろうと個人的には思う。しかも、完全に辞書的な文章(「ボトルネック…○○のこと。」みたいな感じ)の引用っていう、超ベタな説明のしかた。語感は悪くないけれど、使い方が良くない気がして、残念。
そもそも、根本的に「ボトルネック」って、主人公の世界の中での位置づけを表すにはちょっとニュアンスが違うような気がするんだけれどなぁ、なんとなく…。

☆3は、完全にサキのポイント。







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二度読む価値のないものは、一度読む価値もない。(マックス・ヴェーバー)




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なぜだろう、読み終わってみて、感動というより、猛烈にもやもやしている。 『朗読者』
『朗読者』  ベルンハルト・シュリンク 作 松永 美穂 訳 ★★★☆☆



15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。
「なにか朗読してよ、坊や!」――ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。
人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。
彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落としていた。
現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー。
(裏表紙より)







これを恋愛小説というのだろうか。もちろん、恋愛小説であるという側面もある。けれど、猛烈にもやもやする。
あらすじや他の人のレビューを見て、心に沁みるような、切ない、それでいて透明な愛の物語を期待して読み始めた。けれど読み終わった今、感じているのは、猛烈なもやもやだ。

それは、二人の「愛」の始まりがあまりに唐突だったからか、(日本的な価値観で言ったら)男女逆なら犯罪じゃないか…などとつい無粋なことを思ってしまったからか、「ぼく」が真っ直ぐなだけではなく弱いからか、家族や戦争や自由と尊厳など愛以外の視点が多すぎるからか、はたまたハンナの最後の「決断」をどう捉えたらいいのかわからなかったからか。
この猛烈なもやもやの決定的な理由は、そのどれでもあって、どれでもないような気もする。

物語は「ぼく」=ミヒャエルの一人称で進み、ハンナが何を考えているのかは、数少ない「ぼく」の推測のほかは、「ぼく」の視点から語られる言動で推し量るしかない。むしろ、「ぼく」の戸惑いの方がダイレクトに伝わってきてしまい、余計にわからなくなる。

この物語ははたして純愛なのだろうか。「ぼく」は、思春期の少年特有の真っ直ぐさ(それは後先考えないという意味での真っ直ぐさでもあったのだろう)で確かにハンナを愛していたけれど、ハンナのどこに惹かれたのかは、性的なこと以外は具体的に書かれてはいないし、ハンナもこの「坊や」のどこに惹かれたのか、全くわからない。
でも、愛とはそもそも言葉に表せないものなのだから、言葉で答えを探そうとすること自体が無粋なのかも知れない。
それでもあえて考えるなら、二人が惹かれあったのは「タイミング」ゆえなのではないかと思う。(「恋はフィーリング・タイミング・ハプニング」なんていう言葉があるが、本作の二人の関係は、まさにこれを満たしている。)子どもから大人の男へと成長する過程にあったミヒャエルと、孤独なハンナ。二人の出逢い自体が運命だったのだろうか。

二人の関係は、確かにずっと続いていくものではなかったと思う。
それでもやはり「ぼく」にもハンナにも、他の選択があったのではないかと思ってしまう。なぜハンナはその決断をしてしまったのだろう。ミヒャエルはどうやってこれからを生きるのだろう。最後の一文が、余計にやり切れなさを感じさせる。

この作品は、見る視点によって感じることが変わるだろうと思う。
例えば、恋愛以外の要素では、中盤の自由と尊厳に関する「ぼく」と父との問答が、とても印象に残っている。
幸福と、自由と尊厳は別である―。
もう少したったら、違う視点でまた読み返してみたい。

ちなみに、本作は「愛を読むひと」というタイトルで映画化されている。主演のケイト・ウィンスレットがアカデミー賞主演女優賞を受賞している。
映画は観ていないが、この作品を映画にしたら、綺麗に見えすぎてしまうのではなかろうかと思う。だって、映画は客観的だから。原作を読んで感じたもやもやは、きっと二人の表情の「深み」として昇華されているのだろう。それにしても、映画はこの物語をどの側面から描いたのだろう。
蛇足だが、大人になってからは映画をほとんど観ない私の中では、ケイトはタイタニックのイメージで止まっているので、ハンナとなかなか重ならない;







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その中に一片の哀れみをも持たぬ書物なり詩なりは書かれない方がいい。(オスカー・ワイルド)




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tag : 朗読者 ベルンハルト・シュリンク ドイツ文学 愛を読むひと

日常に潜む隙間に、ふと迷い込む感覚を覚える。 『透明な迷宮』
『透明な迷宮』  平野 啓一郎 ★★★★☆



深夜のブタペストで監禁された初対面の男女。見世物として「愛し合う」ことを強いられた彼らは、その後、悲劇の記憶を「真の愛」で上書きしようと懸命に互いを求め合う。その意外な顛末は……。
表題作「透明な迷宮」のほか、事故で恋人を失い、九死に一生を得た劇作家の奇妙な時間体験を描いた「Re:依田氏からの依頼」など、孤独な現代人の悲喜劇を官能的な筆致で結晶化した傑作短編集。
(裏表紙より)







筆者の唱える「分人主義」が私の考え方に合うのではないかと人に勧められて、初めて読んだ平野作品。

短編集で、どの作品も、日常と非日常の絶妙な按配で、日常という安定の中に潜む隙間にふっと落ち込んでしまうような、何とも言えない漠然とした不安定さを感じさせる。
日常的に読むにはきついけれど、思わず自分の存在を見直したくなるようなこういう哲学的な作品は、嫌いではない。
村上春樹作品は比喩などの言い回しが抽象的すぎて、なかなかすっと読みにくいものが多いけれど、この短篇はいずれも、一見突拍子もない設定なのに、自然に入ってくるシンプルな文体のおかげで、日常に違和感なく溶け込んでいる。だからこそ、その日常に潜む隙間に気づいてしまった時、余計に動揺する。



表題作の「透明な迷宮」は、設定が突飛すぎて、最後までどうにも受け入れられなかった。
「彼らの一瞬は、永遠へと飛躍しない。」(P97)という言葉が、いやに気取った言い回しで浮いているように感じられたのだけれど、なぜか強く印象に残ってしまっている。なんだか、筆者の思う壺のような気もしないでもないが…。

「消えた蜜蜂」世界観は、この本の中で一番好きな作品。

「family affair」ストーリーに特別感じるものはなかったが、拳銃というアイテムと登志江の心が読めない表情が、物語に独特の緊張感を生み出していて、なんとなく最後まで引きこまれてしまった。

「火色の琥珀」火に恋する男の独白。いやいやありえないだろ…と思いつつ、読んでいくうちに理解できるような気になって、段々違和感がなくなってしまったのが怖い。

「Re:依田氏からの依頼」時間という一つの感覚をモチーフとして、自分が見ている世界の不確かさ―同じものを見ていても、決して他者と「同じ」ようにはとらえられない、絶対的な孤独のようなものを感じて、そういう意味ではとても共感した。
歩行者や車の動きやエスプレッソマシンから滴る雫の描写からは、目に見えない時間の感覚を鮮やかに思い浮かべることができて、とても面白かった。
数年前、「第六感」をテーマにしたあるテレビ番組で、人とは違う色覚をもつ人のことを取りあげていた。その人たちは通常の人よりも色を「細かく」知覚することができる。私たちには全く同じ色にしか見えないいくつもの「赤い」トマトを、「黄色っぽい」ものや「暗い赤」のもの…と区別していた。印象派の画家には、そういった繊細な色覚を持つ人が何人もいたのかも知れないのだという。そんなことを、ふと思い出した。



この短編集のいずれの作品にも言えることだけれど、境界や段差を感じさせずにまるでスロープのようになめらかに、気づけば日常や自分の価値観とは全く違う場所に導かれてしまっている―そんな感覚にさせられたのは、やはり筆者の筆力だろう。
この人は作品ごとに文体も色々変えているようだから、他の作品が好きになれるかはわからないが、もっと読んでみたいと思った。







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読書しているときはわれわれの脳はすでに自分の活動場所ではない。それは他人の思想の戦場である。(ショーペンハウアー)




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なんとなく一言
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映(えい)

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    ラーメンを食べながら、時々本を読む社会人。
    心を揺さぶる本、価値観を変えてくれる本、爽やかさとともに苦さや切なさを感じさせる本、表現が美しい本、静かな感動を起こしてくれる本、心の奥深くに沁みる本、重さの中にも透徹した雰囲気を持つ本、知的好奇心をくすぐってくれる本、が好きです。


    おもしろそうなのがあったので始めてみた→コトノハ



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