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きらきらひかる
『きらきらひかる』 江國香織 ★★★☆☆



私たちは十日前に結婚した。しかし、私たちの結婚について説明するのは、おそろしくやっかいである――。
笑子はアル中、睦月はホモで恋人あり。そんな二人はすべてを許しあって結婚した、はずだったのだが……。
セックスレスの奇妙な夫婦関係から浮かび上る誠実、友情、そして恋愛とは?
傷つき傷つけられながらも、愛することを止められないすべての人に贈る、純度100%の恋愛小説。

第2回(1992年) 紫式部文学賞受賞
(Amazonより)









どこまでも繊細な恋愛小説。

読んでいる時は、心の中に色々な感情が浮かぶ。
睦月の優しさ、笑子の不器用な真っ直ぐさ、互いの想いや優しさゆえに相手を傷つけてしまうもどかしさ。
人の関係や、愛には様々な形があって、それは私が大切にしていることでもある。
私自身と重なるところもあって、睦月と笑子と紺の3人の関係は理解できるし、共感もする。
共感するが故に、周囲の人々の、「優しさ」という名の悪意のない刃に傷つく彼らの心境が痛いほどわかって、苦しくもなる。
起承転結それだけをとると、すごくシンプルな話なのに(むしろ山という山がない)、日々の「日常」をこそここまで鮮やかに、繊細に描くことのできる作者の力もわかる。



それでも☆3なのは、いくつか理由がある。

1つは、紺がどうしても好きになれなかったこと。
もちろん主役は睦月と笑子だが、紺の存在なくしてはこの話は成立しない。その紺にどうしても気持ちが向かなかったというのは、やはり私にとっては致命的だった。

もう1つは、こちらの方が大きいが、とにかく読んだ後に何も残らないのだ。
言葉もストーリーもサラサラとしていて、飲む時はその味がわかるのに、喉を通過した後は後味を残さない、ミネラルウォーターのような感覚。
以前に東野圭吾を読んだ時の感覚に似ている。
この作者の作風ということもあるが、この1つ前に読んだのが「車輪の下」だったこともあってか、人物も、ストーリーも、言葉の一つ一つも、とにかくどうしようもなく軽く感じてしまった。



読書に限らず、漫画や映画や音楽などの(ざっくりくくると)芸術一般に言えることだが、それらに何を求めるのかは人によって違う。
娯楽的なものを求めるのであれば、軽くてもよい。むしろ軽いことが魅力になる。
けれど、私はその中に何がしかの意味を求めてしまう。単に共感できる、気持ちが明るくなるといったこと以上の、生きる上で糧になったり、自分が揺さぶられるような価値を。
現代小説よりもっぱら純文学が好きなのも、それが大きな理由のような気がする。
現代小説は、何というか、映像的な作品が多いような気がする。

この「軽さ」こそが魅力なのかも知れないが、私にとっては物足りなく感じた。










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tag : 新潮 江國香織 きらきらひかる 紫式部文学賞

車輪の下
『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ  (訳:井上正蔵) ★★★★★


(私が持っているものはもう少し古いので、この装丁ではありません。森の中に少年が2人立っている絵)

南ドイツの小さな町。父親や教師の期待を一身に担ったハンス少年は、猛勉強の末、難関の神学校入試にパス。しかしその厳しい生活に耐えきれず、学業への情熱も失せ、脱走を企てる。
「教育」という名の重圧に押しつぶされてゆく多感な少年の哀しい運命をたどる名作。
(背表紙より)









この作品では、大人たちによる「教育」によって、自分を見失ってゆく少年が辿る運命が描かれている。

いたるところに、大人や、とりわけ学校教育に対する痛烈な批判が見られる。
(p67-68「学校の役目は、政府の認めた原則にしたがって、自然のままの人間を社会の有用な一員とし、自己の特性を発見させることである。そして、それぞれの特性の最後の仕上げは、兵営での周到な訓練というわけだ。ギーベンラート少年は、なんとみごとな発展をとげたことだろう!ぶらぶらと遊びまわることも自分からやめてしまったし、授業中にばか笑いをすることも、もうとっくにやらなくなっていた。庭仕事も、兎を飼うことも、釣りもやめていたのだ。」など)

子どもの頃は違和感や反発を感じていたことに対して、気づけば何も感じず、同化している。
そして、子どもたちに対して、あの頃反発していた「大人」と同じことを言っている。
それは自分が大人になったからなのか、それとも「大人たち」によって少しずつ、しかし確実に角をそぎ落とされ、他人と同じような、言うなればただの球になってしまったからなのか。

読んでいて、心が痛んだり、はっとさせられるところがいくつもあった。
それは私自身が大人であり、そして教育者だからだ。



それにしても、多感で繊細な思春期の少年の心理を、これほど巧みに表現した作家は、未だかつて見たことがない。

訳も素晴らしい。
海外翻訳ものを読む時によく感じる、日本人による日本語表現との摩擦感、違和感のようなものを全く感じさせず、それでいて、日本人作家ではこのような表現はできなかったであろうと思わせられる。
恐らく、原文のもつ雰囲気を極力損なわず、かつ日本語としてもリアルで美しい表現を探されたのだろう。
サガンを読んだ時も翻訳の素晴らしさに感動したが、それをはるかに上回る。



正直なところ、ハンスが試験に合格し、神学校に入学するまでは、私にとってはやや退屈な部分もあった。
(もちろん、この少年時代の描写があるからこそ、後にハンスが故郷に帰ってきたときとの対比ができるのだが)
私がこの作品で最も心を揺さぶられたのは、神学校に入った後の、少年から青年へと移ってゆくハンスの心の変化だった。

周囲の大人の期待にがんじがらめになり、母親のいない厳格な少年時代を過ごしたため、友人たちと他愛ない情緒的なやりとりができず、苦悩するハンス。そこで初めて出会った、自由奔放で詩的な少年ハイルナーへの戸惑いと、初恋にも似た友情。
この、ハイルナーとの友情が築かれて、ハンスの裏切りを経て、再び築き直され、そして別れてゆく過程、二人の関係とそれぞれの心の変化、これがとにかく身悶えするほど鮮やかで繊細で素晴らしい。

例えば、ハイルナーの「甘ったれた憂鬱の虫」(p113)は、私自身もとても共感できるし、教育者として彼らと同年代の子どもたちを見ていてもよくわかる感覚だ。
ただ、これは共感できる人・・・つまり、そういった心の動きを経験した人でないと、おそらく理解できないだろう。



また、詩的で芸術的なものを愛し、ものの本質を見極める力をもつハイルナーの感覚を通した古典に関する描写は、それらをほとんど読んだことのない自分でも心が震えるほど素晴らしかった。

例えば、ヘブライ語は「ひからびていまにも折れそうだが、そのくせ神秘的な生気をもった木」(p109)であり、「異様に節くれだって、奇怪な枝を張り、おどろくような色どりと香りのある花を咲かせて、謎をつつんで伸びて」(p110)おり、「その木の枝や、空洞や根のなかには、何千年もの昔の霊が、ぞっとするような、あるいは親しみぶかい姿をして住んでいる」(p110)。
また、オデュッセーは、「たくましく美しい音をひびかせながら、均斉をとって力強く流れていく詩節のなかから、形態のはっきりした、亡び去った昔の幸福な生活」(p110)が「まるで水中から水の精の白いふっくらした腕がぬっと現れてくるよう」(p110)に浮かび上がってくるのだという。

人や風景や物に対してはともかく、文章に対してこのような表現を使った例が、他にあるのだろうか。

もちろん、心理描写や抽象的な例えだけでなく、風景描写も、目の前に風景が浮かんでくるほど鮮やかだ。
特に気に入っているのは、p122の「窓には美しい花弁をつけた氷の花が幾重にも咲いた。」という部分だ。簡潔だが、この文章を読んだ瞬間、頭の中に氷の結晶が現れた。

心に響いた表現をあげていけば本当にきりがないほど、この物語中盤は一節一節が心を揺さぶる。
(特に印象に残った表現は、本棚の「引用」で記録しておきます)



最初に述べたとおり、「教育のあり方」は本作品のメインテーマの一つだ。

タイトルである「車輪の下」という言葉は、(私の記憶違いでなければ)p141で初めて、そして唯一登場する。
校長が、自分たちの思い描いた方向から外れだしたハンスに対し、次のように語りかける。

「へたばらないようにするんだよ、さもないと車輪の下に圧しつぶされてしまうよ」

結局、その言葉通り、ハンスは「車輪の下に圧しつぶされて」しまう。



ハイルナーと別れ、神学校を離れて故郷に戻り、「優等生」の肩書を失ったハンスを気にもとめない大人や級友たちばかりの中、ようやく友人と呼べるアウグストと再会し、仕事を見つけ、恋をし、遊びを覚え、ようやく自分の人生を歩き始めようかというときに・・・

この結末を、救いがないとみるか、ハンスにとっては救いだったのかも知れないとみるか、人によって違うのかも知れないが。
最後の靴屋の「あなたもわたしも、この子にはもっとしてやることがあったのではないですかな。そうは思いませんか?」という言葉が、胸に刺さる。

教育者として、ずっと戒めにしたい。










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なんとなく一言
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映(えい)

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    ラーメンを食べながら、時々本を読む社会人。
    心を揺さぶる本、価値観を変えてくれる本、爽やかさとともに苦さや切なさを感じさせる本、表現が美しい本、静かな感動を起こしてくれる本、心の奥深くに沁みる本、重さの中にも透徹した雰囲気を持つ本、知的好奇心をくすぐってくれる本、が好きです。


    おもしろそうなのがあったので始めてみた→コトノハ



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