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究極の愛とは何か。 『沈黙』
『沈黙』  遠藤 周作 ★★★★★



島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制のあくまで厳しい日本に潜入したポルトガル司祭ロドリゴは、日本人信徒たちに加えられる残忍な拷問と悲惨な殉教のうめき声に接して苦悩し、ついに背教の淵に立たされる……。
神の存在、背教の心理、西洋と日本の思想的断絶など、キリスト信仰の根源的な問題を衝き、<神の沈黙>という永遠の主題に切実な問いを投げかける書下ろし長編。
(裏表紙より)







宗教とは何のためにあるのか。根本的な問いを突きつけられる。

私自身がキリスト教のミッションスクールに通っていた非キリスト教徒ということもあり、自分が身近にキリスト教に触れながら疑問に思っていた最も大きな問いを、作中のロドリゴも何度も発している。
それが、「神はなぜ沈黙を保っているのか」ということだ。これは、キリスト教だけでなく、多くの宗教について言えることかも知れない。
殉教の歴史は他の宗教にもあるだろう。聖職者が苦しみに耐えるのは理解できる。しかし、実際、迫害され、拷問されたのは、多くは私たちと同じ普通の人たちだ。拷問でなくても、戦争や事故、事件や病など、私たちの世界は理不尽な苦しみで満ちている。
―あなたはなぜ黙っているのです。この時でさえ黙っているのですか。―(P171)
ロドリゴの問いが重い。

この作品では、神に対する裏切りである「棄教」に、それは自分を犠牲にして弱き者のために生涯にわたって心の血を流すという究極の愛である、という全く逆の意味を持たせている。
キリスト教徒から見れば、遠藤の描いたこの解釈は「正しい」ものではないのかも知れない。しかし、貧しさに耐え、その上さらに拷問の責め苦にあっている農民たちを救うために絵を踏んだというロドリゴの行為を、誰が「間違っている」と言えるのだろう。

神は(少なくともキリスト教においては)私たちの為に何かをしてくれる存在ではない―思春期に身近にキリスト教に触れ、自分の思いとの矛盾に悩みながら、何年もかけてようやくわかったことだ。つまり、現世的な利益と神とは無縁なのだ。だから、苦しみから解放して欲しいと願うのも、ある意味間違いなのだと思う。
では、宗教とは何のためにあるのか。神とは何か。

生まれながらにして一つの宗教の価値観を唯一正しいものとして与えられていれば、選択の余地も、疑う余地もない。しかし、私はそうではない。多くの日本人がそうであるように。
遠藤自身もまた、母や叔母から「背負わされた」キリスト教の重みを青年時代に初めて自覚し、悩みながら自分のものとしてきたという。
その「自由」は果たして幸せなのか、そうではないのか・・・。



余談だが、作中ではロドリゴの師のフェレイラの言葉を通して、日本人の宗教観や思想についても述べられている。キリスト教が根付く根付かないについてはわからないが、日本人が「外から入ってきたものを自分たちに合うように形を変えてしまう」民族であるということはとても腑に落ちる。漢字やカタカナ語をはじめ、多くの文化がそのように発展してきたからだ。宗教もまた例外ではないだろう。
フェレイラはそのことに絶望していた。しかし、それは間違っているのだろうか。
それは結局のところ「宗教は何のためにあるのか」という問いに置きかえられるわけで、答えはまだ出そうにない。

ただ、作中のキリシタン禁制の時代は250年あまり(ちなみに、解禁されたのはおよそ150年前であることを考えれば、いかに長い期間であるかわかる。)も続き、聖職者たちが拷問や追放、棄教によって潰えた後も、隠れキリシタンによって「キリスト教」は綿々と受け継がれ、後に「東洋の奇跡」と呼ばれて世界を驚かせる歴史的な「信徒発見」へとつながるのである。(「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が世界遺産として正式に認められれば、この歴史も国内外でもっと幅広く知られていくでしょう。)
この「キリスト教」は、長い期間聖職者たちがいなかったがために当然250年前に伝えられたものとは形が違っているわけだが、2014年に法王フランシスコによって公式にキリスト教の一員であると認められている。
このことは、異なる宗教同士が、または同じ宗教であっても異なる宗派同士が、狭い視野や形式の違いによって互いを非難し、いがみ合う世の中にあって、本当に大切なものは何か考えさせられる。



『沈黙』は海外でも高い評価(と同時に批判もあるが)を受けており、2017年にマーティン・スコセッシ監督の映画が公開される予定だ。
最初は全く興味が無かったのだが、窪塚洋介がキチジロー役を演じるというので俄然観たくなった。
窪塚は陰のある役、芯のある役、狂気を持った役が真骨頂だと個人的には思う。近年はなんだかよくわからない方向に行っているが、純粋に役者としての彼の存在感は唯一無二のものだ。
映画『沈黙』にも期待が高まる。

作品の背景などについて簡単に知りたい方はこちらがオススメ。




<追記17.3.31>
ブクログなどで他の人のレビューを見ていて、ロドリゴが踏絵を踏んだことを、心が折れた(本当に棄教した)、取り入れたものを日本式に変えてしまう日本人の気質(あるいは思想、価値観、性質・・・適切な言葉がうまく見つからない)に最終的には染められた、という解釈をしている人がいることに驚いた。
間違っているというのではなくて、そういう解釈もあるのだということに、恥ずかしながら初めて気付いたのだ。

私は無意識のうちに、自分の価値観に照らしてこの話を解釈していたのだと気付いた。
作品は作者の手を離れた時点で読者のものである、というような言葉をどこかで聞いたことがあるが、作品というフィルターを通して自分を見つめ直すのもまた、読書の醍醐味だなぁと改めて思う。







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小説というものは、迷っている人間が書いて、迷っている人間に読んでもらうものなのです。(司馬遼太郎)






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tag : キリスト教 禁教 沈黙 映画 遠藤周作 マーティン スコセッシ

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