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絶対的な孤独に共鳴して、寂しさが胸に苦く広がる。愛の本質に深く迫る作品。 『草の花』
『草の花』  福永 武彦 ★★★★★



研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。
彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。
まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。
(裏表紙より)







純粋な恋愛小説だと思って読み始めたら、全く違った。
特に、茂思(蛇足だが、この「汐見茂思」という名前の語感はどうにも慣れなかった。「し」が多いからか?)の忍への想いは、恋愛という言葉ではあらわせないように思う。けれど、いわゆる同性愛という一言で片づけてしまうのではなく、彼の感情に本当の意味で共感できる人は、実際多くはないのではないだろうか。

―藤木、と、僕は心の中で呼び掛けた。藤木、君は僕を愛してはくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。僕は一人きりで死ぬだろう……。―(p249)

なんという寂しさだろう。茂思は潔癖なまでに愛を求めたが、自分の孤独を大事にするあまり、与えられる愛に気付かなった。
茂思の絶対的な孤独や愛し方、彼の純粋ゆえのある種のエゴや過ちが我が身に重なり、苦しくなる。
心を深く抉られる作品だった。

巻末の本多氏の解説は、茂思の感情をセンチメンタリズムや同性愛的な恋愛感情と括ってしまわずに、茂思の孤独や潔癖さ、それゆえの寂しさといった、青年期ゆえの苦悩や葛藤に、静かに寄り添っている。
この解説のおかげで、自分の心の言葉にならないいくつもの感情が腑に落ちたとさえ思う。
もしかしたら私は、作品本編と同じくらい、巻末の解説に救われたのかも知れない。



以下、巻末の解説より引用

p268 なんという、ぞっとさせるような孤独だろうと、読者はお考えになるかもしれない。しかし、冷静な理智の眼には、人生の現実はそういう残酷なものだ。人は、ついに、お互いを完全には理解することができない。極言すれば、人間は、誰でも、ひとりぼっちなのだ。もしも、恋愛が完全な理解の上に築かれなければならないという潔癖さを持するとするならば、この世には、おそらく一つの恋愛も築かれないであろう。主人公汐見の悲劇は、そのような潔癖から起った。
このような絶望的な孤独は、多分、作者のものであろう。その絶望の深淵の中から自分を見つめ、人生を見つめることは、さぞつらいことであろうと思う。しかし、そのような深淵の底でこそ、真物が作られる。波の間に間に浮ぶようなものから、われわれは何ものをも期待しはしない。









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私たちは自分が孤独でないことを知るために本を読む。(C.S.ルイス)




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tag : 草の花 純文学 福永武彦

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