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スワンソング
『スワンソング』 大崎善生













評価が分かれる作品だと思う。

その分かれ目は、
「こんな恋愛を、アリだと思うか、ナシだと思うか」
主人公の良、彼と関わる二人の女性、由布子と由香。
彼らの恋愛はあまりに不器用で、彼らはあまりに不完全な人間だから。






<以下途中まで核心に近いネタバレ注意>


この作品を評価しない人には、
「美談みたいになっているけれど、結局良の曖昧な態度のツケじゃないか」
「なんで二人がこんな男を身を滅ぼすほど好きになったのか、サッパリわからん」
と良を許せない人が多いようだ。
あるいは、
「理性的で知的な由香が、良にフラれたくらいで自殺するほど破滅するものなのか?」
と由香の転落っぷりを疑問視する人もいる。
はたまた、
「結婚するまで体の関係はなしなんて、今時そんな女性いるのか?」
と由布子の貞操に対する考え方に疑問を持つ人もいるようだが、これは実際にいますよ。

確かに、それらは正しい。
けれど、恋愛とはある人にとってはそういうものなのだ、と思えば納得がいく。
「恋は盲目」である。
理不尽であることが、ある意味で理に適っている。
完全でない、と言うにはあまりに不完全で、理不尽な、3人の物語。
けれど、完全な恋愛、完全な人間なんて、きっとない。



優しさは、時に最も人を傷つける。
良は、優しい男だった。
けれど、そのために由香が破滅する前にきちんと別れを告げることができなかった。
それは本当の優しさとは言わないのかもしれない。
けれど、自分ではなく由香や由布子のことを思うあまり、かえってその行動が彼女たちを追い詰めていく、あまりに不器用な男。
だから、私はどうしても良を否定することができない。

由香は、理性的で知的で、プライドが高い女性だった。
けれど、その完璧さは薄氷の上に立っているような、ひどく危ういものだったのかも知れない。
それを支えていたのが、良という存在だったのだろう。
最初は、プライドを傷つけられて由布子に復讐をする怖い女、というイメージで話が進むが、後半に進むに従って、それが間違いであることに気付く。
彼女は本当はそんな女性ではなかったのだろう。
良を失ったことが、彼女を変えてしまった。
そして、変わってしまった自分を、彼女自身が一番許せなかったのだろう。

由布子は、都会的な由香とは逆に、田舎から出てきた純粋を絵に描いたような子(「女性」というよりは「子」というイメージ)だった。
それが、おそらく初めての恋、三角関係、そして人間関係の軋み、
彼女が生まれ育った場所にはなかったであろう、複雑に絡み合う人間関係と感情の荒波というのか、
そういうものに揉まれて、今まで防御というものさえ必要としていなかった心があっという間に病んでいくのは、想像に難くない。
「その程度で」と言えるなら、それは人間の心の闇の部分を知っているからだ。


<核心に近いネタバレ終わり>







気分が落ち込んでいる時に読んだら、ますます落ち込んでしまった。
本当に救いのない(ほんの少しだけあるとしたら、最後の展開くらい)、あまりに不器用で哀しすぎる恋愛だ。

由香にしたって、良よりいい男なんて山ほどいるだろうし、
由布子はさっさと田舎に帰ればよかったんだし、
良は良で由布子を病院にでも入れるか、実家から親や友達でも呼ぶなりすればよかった。
いくらでもこの結末を避ける方法はあったのだ。
けれど、まるでそれしか道がないかのように、3人は避けようとすればするほどそこへ向かってしまう。
あまりにやりきれない。


印象に残っているのは、山手線と、白い薔薇のくだり。
私がこの本に強く心を揺さぶられるのは、この話が恋愛の話だからではなく、
その背後にある生と死、孤独、虚無、そして愛、
その狭間で揺れ動く、不安定な心を描いているからだ。


大抵読み始めは造り物くさいと抵抗を感じるのに、気付いたらページをめくるスピードが速くなっている。
「これだ!」とピッタリはまるものがあるわけでもなく、むしろ痒い所に手が届きそうで届かない、強烈なジレンマを感じながら読んでいるのに、
ふとしたフレーズがふっと心の中に落ちてくる。
どんな話でも、すかっとするような爽快感も、胸をかきむしるような悲壮感もなく、
どちらにも振り切れることのない、掴みどころのない、どこまでも透きとおった透明感のある文章。
しかしそれゆえに、他のどの作家の作品よりも深い、やりきれなさが胸を締め付ける。
大崎善生の作品は、私にとってとても不思議な存在だ。


☆-1は、他の方も書かれているようにやはり時系列がわかりにくい(あえてそうしているのだろうが)のと、時々出てくる音楽が私にはわからないので。
わかる人にはすごく効果的なものでしょう。
話としては、すごく好きです。










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tag : 角川 大崎善生 スワンソング

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映(えい)

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