きりぎりす
2013-03-12(Tue)
「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。……」
名声を得ることで破局を迎えた画家夫婦の内面を、妻の告白を通して印象深く描いた表題作など、著者の最も得意とする女性の告白体小説『燈籠』『千代女』。
著者の文学観、時代への洞察がうかがわれる随想的作品『鷗』『善蔵を思う』『風の便り』。
他に本格的ロマンの『水仙』『日の出前』など、中期の作品から秀作14編を収録。
(背表紙より)
短編はあまり好きな方ではなかったが、太宰の短編を読んで、その考えがひっくり返された。
それは、太宰の卓越した心理・情景描写、言葉の選び方が、写真のように一場面を切り取る短編という文章のかたちに、ピタリとはまったからだと思う。
それはもう、読んだ後に鳥肌が立つような「切り取り方」だ。
特に、始まり方の表現がすごい。
そして、心理描写。
特に、心の弱さや卑屈さ、暗さ、そしてそれに完全に屈してしまうのではなく、悶え、挫けながらも頭を上げんとする姿―美しい強さではなく、99の絶望と諦めの中にあっても1の可能性に縋り付こうとする、または未練を捨てきれない、なりふり構わぬ、泥にまみれた姿と言うべきか―を表現させたら、この人に勝る人はいないんじゃなかろうかと思うほどだ。
人間失格を読んだ時にもなんとなく惹かれたが、短編を読んですっかり魅力にハマってしまった。
以下追記内備忘録(ネタバレ有)
今まで読んだ本の記録→本棚
<姥捨>
p25「倫理は、おれは、こらえることができる。感覚が、たまらぬのだ。とてもがまんができぬのだ。」
「くるしすぎて、いまでは濃い色彩の着いた絵葉書のように甘美な思い出にさえなっていた。白い夕立の降りかかる山、川、かなしく死ねるように思われた。」
<畜犬談>
犬好きの自分は最初眉をしかめるほどに、犬をさんざんけなし、憎んでいたはずの主人公が、終いに味方になってしまう。その過程と犬に対する評価をこれでもかと真面目くさった文体で書いた文章に、思わず笑ってしまった。こんな形のコメディがあったのかと、新発見。
<風の便り>
とても印象に残った。木戸は、自分そのものだ。自分の卑屈さや偽善、傲慢さを見抜かれたようだった。そして、そんな嘘や見栄や慇懃丁寧な言葉で重装備された本性を、痛烈な言葉で丸裸にする井原との応酬。読んでいて、苦しいような、心地いいような、不思議な感覚を覚えた。
<水仙>
「忠直卿行状記」のくだりが、とても印象的だった。p304「天才の煩悶と、深い祈り」
<日の出前>
タイトルと話のオチがつながったときの、衝撃が凄まじい。これを最後にもってくるとは、新潮にしてやられたという感じ。
それにしても、どれにおいても本当にタイトルが秀逸。
p25「倫理は、おれは、こらえることができる。感覚が、たまらぬのだ。とてもがまんができぬのだ。」
「くるしすぎて、いまでは濃い色彩の着いた絵葉書のように甘美な思い出にさえなっていた。白い夕立の降りかかる山、川、かなしく死ねるように思われた。」
<畜犬談>
犬好きの自分は最初眉をしかめるほどに、犬をさんざんけなし、憎んでいたはずの主人公が、終いに味方になってしまう。その過程と犬に対する評価をこれでもかと真面目くさった文体で書いた文章に、思わず笑ってしまった。こんな形のコメディがあったのかと、新発見。
<風の便り>
とても印象に残った。木戸は、自分そのものだ。自分の卑屈さや偽善、傲慢さを見抜かれたようだった。そして、そんな嘘や見栄や慇懃丁寧な言葉で重装備された本性を、痛烈な言葉で丸裸にする井原との応酬。読んでいて、苦しいような、心地いいような、不思議な感覚を覚えた。
<水仙>
「忠直卿行状記」のくだりが、とても印象的だった。p304「天才の煩悶と、深い祈り」
<日の出前>
タイトルと話のオチがつながったときの、衝撃が凄まじい。これを最後にもってくるとは、新潮にしてやられたという感じ。
それにしても、どれにおいても本当にタイトルが秀逸。
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