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塩狩峠
『塩狩峠』 三浦綾子 ★★★★★



結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。
声もなく恐怖に怯える乗客。
信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた……。
明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。
(裏表紙より)









三浦文学はこの作品が初めてだった。
言うまでもなく、三浦文学はキリスト教の信仰が芯にある。
だからこそ、キリスト教に対する意識は三浦文学に対する印象に直結する。

私はキリスト教徒ではないが、ミッションスクールに通っていたため、主人公・永野の行動は理解できる。
ただ、なじみはあるし、キリスト教は私の人生に少なからず影響を与えたとは言え、私はキリスト教徒ではないし、全てに納得がいっている訳ではない。
だから正直なところ、後半の揺るぎない信仰に貫かれた永野より、前半の「人間臭い」永野の方に私は惹かれる。
思春期に色々な人と出会い、揺れ動き、心と身体の成長に戸惑いながら、次第に大人になり、自分を確立していく。キリスト者を「ヤソ」と呼んで拒絶する祖母の影響を受けて育ち、父に人としての在り方を教わり、熱心なキリスト教徒であった実の母と出会い、最初は反発や戸惑いを感じながら、多くの人と出会い、次第に確固たる信仰をもつに至る、その過程の方に惹かれる。



特に印象に残った箇所がいくつかある。

幼い信夫が「町人の子なんかに…」という言葉を口にし、人に上下はないのだと、生まれて初めて父に厳しく叱られ、諭される場面。
父が信夫に人には命を懸けてでも貫かねばならぬ信念があるのだと教える場面。この時、幼い信夫には、父の言葉の本当の意味が分からず、キリストの磔のむごたらしさだけが心に残った、とある。信夫は、父の教えやキリスト教に最初から染まったのではない。幼さゆえの戸惑いや無知、未成熟な心だからこそ、読み手は共感できるのだと思う。
約束の重さについて信夫が身をもって知る場面。この作品の中で最も好きな場面かも知れない。
成長する心とそれを表す言葉の乏しさとのギャップに信夫が煩悶する場面。
読書によって、信夫が人と自分の身をおきかえることを学ぶ場面。
隆士との会話や父の死を通して、死について信夫が深く考える場面。
待子が自分の為に一番大切なものを差し出したことに、信夫が感動する場面。
信夫が言葉の限界に気づき始めた場面。
思春期になり、信夫が自身の中の性に思い悩む場面。
吉川と信夫が、互いに交流の中で生き方について考える場面。

どれも信夫が大人になる前の場面だ。
幼少期から思春期の信夫の心の揺れと成長が丁寧に描かれていて、実のところクライマックスの死の場面よりもずっと心に残っているし、感動もした。



この作品は、キリスト教や宗教になじみのない人にとっては強い抵抗感を感じる作品でもあるようだ。
一方で、思春期の中高生に読んで欲しい本として挙げられることも多く、他の価値観を知らぬまま、作品に影響を受けてキリスト教徒になった若者もいる。
そのことに関しては、一言で言うのは難しいが、そのタイミングでこの作品がキリスト教と出会ったきっかけになったのなら、それは運命であったとも思える、あくまでキリスト教は選択肢の一つであって、もっと色々なものを見聞きして自分の生きる道を決めるべきであるとも思う。

信仰は永野の芯を貫くものであり、彼の生き方を語る上で欠くことはできない。
しかし、キリスト者でなく一人の人間としての永野信夫の生き方こそが、本当は大事なのだと、私は思う。
私にとって信仰とは、あくまでより善く生きるための拠り所の一つであるにすぎず、そのもののために生きるのではないからだ。
だから、この作品もキリスト教も、無条件に受け入れもしなければ、拒絶もしない。



この作品はキリスト教を過度に美化するものだとして抵抗感を感じる人もいるようだ。
しかし、一番大切なことは、この作品が実在の人物と出来事をモデルにしているということではないだろうか。

多少の脚色はあるにせよ、このような生き方をした人間が、実際にいたという事実。
キリスト教の好き嫌いに関わらず、この一人の人間の生き方から考えさせられることは多いのではないだろうか。










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