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新・人間の証明 上下
『新・人間の証明』 森村誠一 ★★★★☆



仕事で来日中の中国人女性通訳・楊君里が、深夜、都内のタクシーの中で突然苦しみだし死亡した。自殺か他殺か、そしてなぜ“レモン一個”が残されていたのか?
麹町署の棟居は、彼女が持っていた本から、元陸軍少年見習技術員だった作家と出会う。そして、その男のペンネーム、ナミハジメからたどりついたのは、恐ろしい秘密をかかえた細菌戦研究機関・第731部隊であった。厚いベールに包まれた731部隊の全容を暴く渾身の大長篇。(上巻裏表紙より)









このような作品についてレビューをここに書くべきかどうか、本当は迷った。
けれど、もともと備忘録として始めたブログなのだから、やはり記録として残しておこうと思う。



この作品はミステリーという形をとっているが、芯にあるのは犯人捜しでもミステリーとしての巧妙さでもなく、731部隊である。731部隊の全容と、それに関わった人間の姿を通して、人間の尊厳とは何かを問いかけている。
形としてはフィクションだが、史実をベースに作られている。

こういった作品を読むのに慣れておらず、登場人物が非常に多いこともあり、最初は読むのにとても苦労したが、下巻からは一気に読んだ。
これだけ登場人物が多く、場面が移り変わる中で、一つの作品として緻密に練られており、作者の気迫を感じる。
ただ、731部隊の全容に比して、事件そのものの結末や犯人の動機が、あまりにもお粗末だったように感じられた。
もちろん、作中では結局闇の根幹を捉えることはできなかった、とあり、だからこそ虚しさを感じるわけだが。
作中の「事件」と731部隊の関係がややこじつけた感が否めなかったのも、そもそもの軸が731部隊にあるのだから当たり前といえば当たり前だが、純粋に作品として読むとするなら、モヤモヤが残る。
それゆえの☆-1。



どこまでが事実で、どこからが虚構か。作者の見方には賛否あるようだが、私は専門家ではないのでここでそれをどうこう主張する気はない。
作者は、731部隊の行っていたことのおぞましさ、そしてそういうことをするのは特別な人間ではなく、ごく普通の人間であること、つまり、私たちの心の中に鬼はいるのだということ、そのような私たち人間の尊厳とは何か―そういったことを伝えたいのだろうとは思う。
ただ、読みながら私が一番思ったことは、別のことだった。



作中にあったような731部隊の行為が糾弾されるとすれば、それは主に人体実験などの「非人道性」による。
巻末の下里正樹氏による解説では、生還者の有無をナチスのアウシュビッツと比較する記述があるが(p313)、たった一文とは言え、研究を目的とした731部隊の行為と殺害そのものを目的としたナチスのホロコーストを並べることには、大いに疑問を感じる。(誤解のないように書いておくが、だからといって作中に出てくるような731部隊の行為を正当化するつもりはもちろん毛頭ない。)
作中では、731部隊の所業がいかにおぞましいものであるかが淡々と綴られる。
実際には、感情的な記述は棟居の視点でしかなく、「おぞましい」と感じるのは読んでいる私たちの方なのであるが、なぜそれを私たちは「おぞましい」と感じるのか。

それは、人間を人間として扱っていないからであり、命を命として扱っていないからである。

では、それが人間でなければよいのか。私たち人間が、生きるための必要最低限以上に、自分たちの娯楽や好奇心や利益の為に他の動物の命を奪うことは、なぜ暗黙のうちに許されているのか。
研究の為に、動物の命を犠牲にすることなど、間接的にであれば、私たちはみんな日常的に行っている。
いざその現場を見ればかわいそうなどと言ってみるが、化粧品を使うし、薬を飲むし、服を着るし、もっと日常的な場面は蚊をつぶす。目を背けているだけである。
中には、それをすべてやめ、動物の肉を食べるのさえやめる人もいる。正直笑ってしまう。植物だって立派な命だ。(余談だが、個人的には、生物としては動物や人間より植物の方がよっぽど貴いと思う。)

植物はなぜいいのか。感情がないからか。鳴き声を上げないからか。動いていないからか。生きていくために植物を犠牲にすることはやむを得ないからか。
動物はだめで、植物は仕方ない。一体、その「命」の基準は、誰が決めたのか。答えは、あるはずがない。一人一人違うからだ。

この本を読みながら一番思ったのは、人間の尊厳云々よりも、命の価値とはなんなのだろう、ということだ。
「同じ人間」への所業が残酷に描かれれば描かれるほど、心は人間の外に向く。
命の価値の基準も、残酷であるかどうかも、結局は全て人間が決めている。そう考えると、人間の言う「尊厳」そのものがそもそも虚構に過ぎないのだ。そこに、絶対的な答えなどあるはずがない。
他の生物は、生きていくことと子孫を残すことそのものが存在意義なのであり、そこに感情論的な価値など求めていない。

そこまで考えてしまうと、つくづく人間とは虚しい生物だなと思う。






==============

読書とは、著者の魂との邂逅である。(亀井勝一郎『読書論』)






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