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失はれる物語
『失はれる物語』 乙一 ★★★★☆



目ざめると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが……。
表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。(裏表紙より)







さまざまな「失はれる」物語をあつめた、切なく透明感のある短編集。

「失はれる物語」はもちろん表題作のタイトルであるが、収録された短篇はどれも「失はれる」ことがテーマになっているように思う。
失はれるものは、感覚であったり、指であったり、友人であったり、パンツ!?であったり、見知らぬ人であったり、様々であるが、失はれる「何か」とそれにまつわる人の想いが、透明感のある筆致で描かれている。
心にじんわりと染み込んでいく話が多く、とてもよかった。



(注:一部ほんのりネタバレあり)

「Calling You」、「しあわせは子猫のかたち」は、ストーリーとしては本書の中では一番好きだった。
「Calling You」は、シンヤが(少なくとも主人公と同じ次元には)実在しない存在だったらよかったのになぁとは思ったが。
「しあわせは~」のミステリー的な(殺されたという)設定は必要なんだろうか、とも思ったが、犯人がどうこうではなく、「殺されてしまった」ということが物語にほんのりと苦みを加えていて、それがよかったのかな、とも思った。ただの「死んだ」人だったら、ほのぼのとした、ぼやっとした感覚しか残らなかったかもしれない。その点では、「Calling You」も同じかもしれない。

「傷」は、一応ハッピーエンドなんだろうけれど、読後感はあまりよくなかった。
最終的に主人公たちは憎しみや悲しみから解放され、彼らを裏切った(裏切らざるを得なかった)人たちを赦すのだが、彼らの周りの人たちが見せた弱さが、普遍的な人間の業のように思えて、読んでいて悲しくなってしまった。
私には彼らを「赦す」ことはできそうにない。
けれど、特殊学級の先生の存在は希望を与えてくれる。
最初は、主人公の表面的な行いから引き受けるのを拒絶していたが、彼が特殊学級に入ってきてからは、偏見にとらわれず、きちんと彼のことを見極めようとする描写があった。彼女はことさらにいい人(例えば、正義感に溢れて彼を庇う、など)に描かれている訳ではないが、それがむしろいい。
最後の見舞いのシーンから、これからも彼女はきっとほどよい距離感で主人公たちを見守ってくれるだろうと思わせてくれた。

表題作「失はれる物語」は、読んでいて一番辛い話だったが、一番心に残った話でもあった。
これが愛の形だというのはわかるが、主人公があまりに救われない結末で、やり切れない。

「手を握る泥棒の物語」は、とても微笑ましくて、爽やかだった。

「ボクの賢いパンツくん」は、最初に読んだ時はかなり面食らった。
しかし、この「失はれる物語」という短編集の中に収まると、不思議と違和感がない。
この話は、パンツくんを通して「幼少期との別れ」=成長を描いているからだ。そういう意味では「Calling You」と似ているかもしれない。

「マリアの指」は、途中まではとても引きこまれていたのだが、結末の部分で大きく「うーん…!」となってしまった。
最後の「ウソカノ」は、なぜ収録されたのかも含めて、正直理解できなかった。
書き下ろしだというが、必要なかったのではないかと思ってしまった。



読んでいて思ったのは、作風なのかはわからないが、切なくてどこまでも透明感のある物語でありながら、どこかにかすかに、しかし確実に苦みや痛みを感じる作品が多かったように思う。
このあたりが、読んでいてすっきりしきれず、けれどもそれがないと物語のもつ質感が変わってしまうこともわかっていたから、とてももどかしく感じた。
☆-1はその辺りによるものだ。けれど、苦みや痛みがなければ、おそらく☆3になったのだろう。
乙一氏の作品をちゃんと呼んだのは初めて(またはかなり久しぶり)だと思うが、「白乙一」「黒乙一」などと言っている人もいたので、他の作品も読んでみたくなった。





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この世のあらゆる書物も、お前に幸福をもたらしはしない。だが、書物はひそかにお前自身の中にお前を立ち帰らせる。(へルマン・ヘッセ)






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tag : 乙一 失はれる物語 角川

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