FC2ブログ

*All archives* |  *Admin*

2018/08
≪07  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31   09≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
日常の中に内在する「生」と「死」を鮮やかに描いた傑作短篇集。 『星々の悲しみ』
『星々の悲しみ』  宮本 輝 ★★★★★



喫茶店の壁にかかっていた一枚の絵「星々の悲しみ」。この薄命の画家の作品を盗み出し、ひとり眺め入る若者を描く表題作のほか、不思議なエネルギーをもつ輝かしい闇の時代・青春のさなかに、生きているあかしを、はげしく求める群像を、深い洞察と巧みな物語展開で、みごとに描いた傑作短篇の数々。
(裏表紙より)







日常の中に内在する「生」と「死」を鮮やかに描いた傑作短篇集。


「星々の悲しみ」

青春の煌きの中に、生と死の狭間で揺れる心が描かれている。
深くて碧い湖のような、圧倒的な透明感と、光と闇のコントラストを持つ作品。
「青が散る」を初めて読んだときの、心の奥深くを揺さぶるような静かな感動が蘇ってきた。
登場人物は、みな真っ直ぐで、汚れたり捻くれたところがなくて、愛すべき弱さと不器用さをもっている。

主人公の「ぼく」は、医学部を志望する浪人生。「猛烈な勉強をしてやろう」と決心しつつ、それに見合うだけの努力ができずにいる。予備校をサボって入った図書館で見かけた女性に惹かれ、彼女にいいところを見せたい、再び会いたいという思いだけで図書館に入り浸る。そこで、同じ予備校でいつも最前列で授業を受けている二人と出逢う。絵に描いたような二枚目で成績もトップクラス、女性に対しても余裕でウィットに富んだ有吉と、絵に描いたような三枚目で成績はギリギリながら人一倍努力を重ね、女性に対して真っすぐで情熱的な草間。対照的な二人の友人と、「星々の悲しみ」という絵画、「ぼく」が惹かれた女性と妹の加奈子のかかわりの中で、「ぼく」の心が描かれていく。

生と死を軸に、目的に向かって一途に打ち込めない弱さ、一方通行の淡い恋、将来への不安、つかの間の出逢いと別れ、アイデンティティのゆらぎなど、一人の人間の生の煌きとどうしようもない寂しさ、モラトリアムの中でもがく青年の姿を、静かな筆致で、それでいて温かい眼差しで描いている。
解説者は巻末で、「青春とは、ナイーヴでいて力づよく、またみにくさも恥も透かしてしまう不思議なエネルギーをもつ輝かしい闇なのだ」と述べている。「星々の悲しみ」という、作中に登場する絵画のタイトルでもある題名が、すべてを表している。
盗んだ絵の見方が変わり、やがてその絵を返すというドラマと、その流れの中での出会いと別れを通して、「ぼく」の心の変化―迷いの中から前を向くまで―を見事に描いている。
ラストの文章にも、心の奥底からこみ上げるような感動を覚えずにはいられない。

私はこういう作品を待っていた。


「西瓜トラック」 「火」

宮本氏の作品のもう一つの特徴である、昭和期の庶民の生活の匂い立つような描写が印象的。
毎回見事だとは思うけれど、見事であるがゆえに生々しく、こちらの系統の作品は個人的には苦手だ。


「北病棟」

生と死の対比が、この短篇集の中ではある意味最も直接的に描かれた作品。


「小旗」 「蝶」

タイトルからもわかるように、日常生活の中にあるものを鍵に、市井に生きる名もなき人々の生を鮮やかに描いている。
それにしても宮本氏は、何気ないモチーフを軸に、心の奥深くを彫刻のように描き出すのが本当に上手い。
五感に訴える描写、モチーフの選択、生と死・明と暗・若きと老いのコントラスト、余韻の残し方が、本当に見事。
この人は実は短篇向きなのではなかろうかと思うほど。
赤い小旗と、薄暗い理髪店の店内で揺れる何百もの蝶が目に浮かぶ。特に、生と死を軸にしたこの短篇集の中で、生と死の狭間で時間を止められているとも言える「標本」というモチーフは、とても象徴的だ。


「不良馬場」

ラストに最も衝撃を受けた作品。

正直初めはあまり興味を持てなかったが、後半、話が寺井の視点に移ってからは、読んでいくうちにいつしか、ケンちゃん、ヒデさん、高嶋さん、金さん、おばちゃんといった寺井と同じ病棟の面々が好きになっていった。
彼らは死が身近でありながらも、捨て鉢とは違う、達観しているともいうべき、不思議な明るさとエネルギーをもっている。(もちろん、それと対をなすトウホクさんの死も描かれている。光を描くのに闇を使う、宮本氏の真骨頂である。解説の「暗さと放埓さのまじりあう世界」が言い得て妙。)

初めは悲観的であった寺井も、競馬場で仲間と過ごした日々のことを花岡に話していくうちに、次第に生きる活力を取り戻していく。
互いに苦い思いを抱きながらも一筋の光を見出して未来へ向かっていく二人のように、目の前を二頭の馬が駆け抜けていく。
ここで終わっていれば、何の変哲もない物語なのだが、そうではないところが宮本作品。
ラスト1ページ弱の衝撃。読み終わって、しばらく呆然としてしまった。
「星々の悲しみ」に始まり、この話を最後にもってくる憎さ!
これはぜひ読んで、感じてほしい。



文学にも女性的、男性的なものがあると思う。それは単に、男性の方が力強く、女性の方が繊細、などという単純なものではなく、女性的な目線、男性的な目線、という意味においてだ。
そういう意味では、宮本氏の作品は、基本的にとても男性的であると感じる。「西瓜トラック」などの作品にみられるような、少年の性に対する視点は、男性でなければ描けないだろう。「錦繡」が合わなかったのは、宮本氏が描く女性視点に違和感を覚えたことも大きかった。
ただ、同時に、青年期の男性の繊細で危うい心の機微を描いた、「青が散る」や「星々の悲しみ」のような作品はとても好きだ。
氏の作品の中でも、好きな作品とそうでない作品に分かれるのはなぜか、この短篇集に出逢うことでわかってきた気がする。

作中で「ぼく」が読んでいた「ツルゲーネフ全集」を、読んでみたくなった。



それにしても、「青が散る」といい「星々の悲しみ」といい、A●azonでも此処でも、なぜこんなにレビューが少ないのか・・・古い作品ということもあるけれど、空気感が静かすぎるのかなぁ。
もっと評価されるべき素晴らしい作品だと声を大にして言いたいです!(個人的な感想です)








==============

大切なのはどの本、どんな経験を持つべきかではなく、それらの本や経験のなかに自分自身の何を注ぎ込むかだ。(ヘンリー・ミラー)




今まで読んだ本の記録→本棚
レビューの記録だけでなく、引用も記録できるので、重宝しています。
引用だけをまとめて見ることもできるので、時々、まとめて読んでいます。
本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ

興味のあるジャンルの本にもっと出会うべく、こちらも始めてみました。


にほんブログ村 その他日記ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
関連記事

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

tag : 文春 宮本輝 青春 生と死

Secret
(非公開コメント受付中)

なんとなく一言
管理人

映(えい)

  • Author:映(えい)
  • マイペース更新。

    ラーメンを食べながら、時々本を読む社会人。
    心を揺さぶる本、価値観を変えてくれる本、爽やかさとともに苦さや切なさを感じさせる本、表現が美しい本、静かな感動を起こしてくれる本、心の奥深くに沁みる本、重さの中にも透徹した雰囲気を持つ本、知的好奇心をくすぐってくれる本、が好きです。


    おもしろそうなのがあったので始めてみた→コトノハ



    【お知らせ】
    PCのお気に入りに登録していたブログをサイドバーのリンクリストに移してます。
    あくまで自分のお気に入り的な感覚なので、「リンクする場合はご一報ください」などの断り書きのないブログさんは特に報告をしていません。
    被リンクを拒否したい方はお手数ですがコメントください。

    本ブログはもちろんリンクフリーです。
    (商用・アダルト・掲示板ログ的なブログを除く)








    ↓カウンター↓




    ↓ランキング参加中。気が向いたら応援よろしくお願いします。↓
    にほんブログ村 その他日記ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 本ブログへ
    にほんブログ村
    ランキングバナー

    ↓新たなブログとの出逢いに。↓
    BlogPeopleガチャガチャブログ
カレンダー
07 | 2018/08 | 09
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
月別アーカイブ

2018年 05月 【1件】
2018年 02月 【1件】
2018年 01月 【1件】
2017年 12月 【1件】
2017年 10月 【1件】
2017年 09月 【1件】
2017年 07月 【1件】
2017年 06月 【1件】
2017年 05月 【2件】
2017年 04月 【3件】
2017年 03月 【1件】
2017年 02月 【1件】
2017年 01月 【1件】
2016年 12月 【1件】
2016年 10月 【2件】
2016年 09月 【1件】
2016年 08月 【3件】
2016年 06月 【1件】
2016年 05月 【3件】
2016年 03月 【3件】
2016年 02月 【1件】
2016年 01月 【2件】
2015年 12月 【3件】
2015年 11月 【2件】
2015年 10月 【2件】
2015年 09月 【4件】
2015年 08月 【4件】
2015年 07月 【2件】
2015年 06月 【4件】
2015年 05月 【2件】
2015年 04月 【2件】
2015年 03月 【2件】
2015年 02月 【3件】
2014年 10月 【1件】
2014年 08月 【1件】
2014年 07月 【2件】
2014年 06月 【1件】
2014年 04月 【1件】
2014年 02月 【3件】
2013年 12月 【1件】
2013年 08月 【3件】
2013年 05月 【1件】
2013年 03月 【2件】
2012年 12月 【1件】
2012年 03月 【1件】
2011年 11月 【1件】
2011年 09月 【2件】
2011年 05月 【2件】
2011年 04月 【4件】
2011年 02月 【4件】
2011年 01月 【9件】
2010年 11月 【2件】
2010年 10月 【4件】
2010年 09月 【5件】
2010年 08月 【1件】
2010年 07月 【3件】
2010年 06月 【1件】
2010年 05月 【2件】
2010年 04月 【2件】
2010年 03月 【7件】
2010年 02月 【4件】
2010年 01月 【4件】
2009年 12月 【2件】
2009年 11月 【6件】
2009年 10月 【4件】
2009年 09月 【3件】
2009年 08月 【6件】
2009年 07月 【9件】
2009年 06月 【7件】
2009年 05月 【8件】
2009年 04月 【5件】
2009年 03月 【9件】
2009年 02月 【13件】
2009年 01月 【10件】
2008年 12月 【7件】
2008年 11月 【7件】
2008年 10月 【4件】
2008年 09月 【6件】
2008年 08月 【7件】
2008年 07月 【5件】
2008年 06月 【7件】
2008年 05月 【11件】
2008年 04月 【14件】
2008年 03月 【17件】
2008年 02月 【24件】
2008年 01月 【10件】
2007年 12月 【10件】
2007年 11月 【11件】
2007年 10月 【13件】
2007年 09月 【11件】
2007年 08月 【21件】
2007年 07月 【9件】
2007年 06月 【4件】
2007年 05月 【7件】
2007年 04月 【2件】
2007年 03月 【8件】
2007年 02月 【3件】
2007年 01月 【4件】
2006年 12月 【1件】
2006年 11月 【3件】
2006年 10月 【3件】
2006年 07月 【2件】
2006年 06月 【7件】
2006年 05月 【16件】
2006年 04月 【8件】
2006年 03月 【6件】
2006年 02月 【4件】
2006年 01月 【4件】

カテゴリー
記事
コメント
トラックバック
検索フォーム
RSSリンク
御用達
倉庫



↓ダジャレ図鑑(笑)↓



リンク(サイト名マウスオンで説明表示~)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。