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音の森の中に生きる道を見つけた、青年の物語。 『羊と鋼の森』
『羊と鋼の森』  宮下 奈都 ★★★★☆



ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
(「BOOK」データベースより)







音という目で見えない世界を、文章でどのように表現するのか。
冒頭の部分で、タイトルからは全く想像できないピアノの世界がどうやらこの物語のテーマらしいと気づいたとき、そこに興味がわいた。

主人公の青年が、はじめてピアノの調律の音と出逢ったとき、彼は「森の匂い」を感じた。
音を色や景色で例えることはよくあるが、匂いで例えた文章に出逢ったのは、記憶にない。
その森は、秋の、夜の入り口の、静かで、あたたかな、深さを含んだ森だった。(p8)
その奥深く凛とした音の森に、彼はそこから足を踏み入れていく。

私も昔、そこそこ長くピアノを弾いていたが、「羊と鋼の森」を感じたことはなかった。
ピアノの新しい魅力に気づかせてくれる、素晴らしい表現だと思う。

私は、この作品を通して、主人公の成長過程や物語よりも、主人公がピアノを通して自分と向き合う場面(とくに序盤)がとても印象に残った。
その一つが、先ほど書いた、彼がピアノの音と出逢う場面であり、
また、p19~20にある、「美しいものに(知っていたのに)気づかずにいた」ことに気づく場面だった。
彼の目を通して、私も自分の記憶と心を辿り、「気づかずにいた美しいもの」に気づくことができた。

それから、主人公の同僚の柳さんが、感覚が繊細で、公衆電話や看板の不自然で派手な色が許せなかったり、道を歩いていると世界がどうしようもなく汚く見えてしまったりして苦しくなり、メトロノームの秩序立った音に救われた、というエピソードには、とても共感した。
自分自身もそうだし、身近にもそういう人がいる。(その人は数字に敏感で、色がついたり動物に見えたりする、いわゆる「共感覚」をもった人です。)

「世界との調和」というこの作品のテーマは、私自身の心にすっと沁みこんでくるものがあった。








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ドイツ語の読む=レーヴェンと言う言葉は、本を読むことであると同時に、収穫物をえり分け摘み集める事と、自然の産物を拾い集めることを意味する。(種村季弘)




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tag : ピアノ 本屋大賞 宮下奈都

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